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最高裁判所第一小法廷 昭和41年(行ツ)52号 判決 1969年2月06日

宇部市上宇部中村川津一四七四番地

(登記簿上 下関市大字竹崎町一番地の五)

上告人

有限会社 藤香田商店

右代表者代表取締役

香下七郎

下関市山の口町一の一八

被上告人

下関税務署長 小林一郎

右当事者間の広島高等裁判所昭和三七年(ネ)第二六九号行政処分無効確認請求事件について同裁判所が昭和四一年三月二五日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があつた。よつて、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由一について。

本件記録に徴するに、昭和四〇年六月一日の原審口頭弁論において陳述された上告人の同日附準備書面には、原判決事実の摘示(二)に記載されたところに相当する記述が認められる。されば、そのような主張をしたことを否定する論旨は根拠を欠く。原判決は、その理由(二)において、上告人の右の主張の理由のないことのみならず、所論の一三、七五七円にのぼる被上告人の否認行為についても、それが本件更正処分を無効ならしめるものでない旨を判示しているのであるから、これに所論の違法は存せず、論旨は理由がない。

同二について。

その(1)にいう上告人の主張に対する誤認が原判決に存しないことは、前叙のとおりである。その(2)は、原審の専権に属する証拠の採否を非難するに帰し、もとより理由がない。その(3)において論旨が趣旨不明という「叙上のような理由」とは、上告人の係争事業年度の前年度分の所得についての更正処分が否認額三六、三四三円の存在を理由としたのを指すこと判文上明らかであり、原判決は、右の事実その他挙示の証拠に基づき、被上告人が何ら理由のないのに五〇、一〇〇円(それは、上記否認額と係争事業年度における否認額一三、七五七円の合計額にあたる。)を益金加算額に水増しをした事実はない旨を判示したのである。されば、原判決が所論のような憶測によつたものとは到底認められず、これを違憲とする主張は前提を欠く。このことは、(4)の論旨についても同様である。その(5)は、原判決が、挙示の証拠に基づき、単に被上告人が係争事業年度の益金に加算した金額中には被上告人において同年度の経費その他につき否認した金額一三、七五七円が含まれるという事実を認定したのにとどまるのに対し、その否認行為を失当と論ずるものであつて、正鵠を失する。しかも、所論は結局原審の専権に属する採証を非難するにすぎない。そして、以上説示したところからすれば、その(6)、(7)の理由のないこともまた明らかである。

同三および四について。

被上告人が本件更正処分をするにあたつて、係争事業年度の前年度における所得計算の否認金額三六、三四三円を「利益処分によらない表現積立金の増加」として一旦係争事業年度の益金に加算したうえ課税済のものとして減算したのは、上告人が右否認による帳簿の修正を損益計算書に計上する方法によらず、直接前期繰越益金勘定、税金引当勘定を増額させる方法により修正しているため、課税所得の計算上所得金額の計算と積立金額の計算とを関連させるためとられた措置と認められ、その超過所得算定上必要な期首積立金額の内容を明確にするためにも、これを所論のように無用の操作とはいいがたい。また、右否認金額と係争事業年度における経費その他の否認金額一三、七五七円の合計がたまたま五〇、一〇〇円となるにしても、所論のように、上記の操作が右係争事業年度の否認金額を理由あるよう見せかけるための被上告人側の計画的作為とは到底推認しえない。

ところで、課税庁による経費等の否認があり、その否認が違法である場合に、それを理由とした更正処分に瑕疵があることになるのであるが、その瑕疵が更正処分を当然無効ならしめるには、それが重大かつ明白なものでなければならない。そして、その瑕疵の明白とは、処分の外形上客観的に処分庁の誤認が一見看取できる程度のものでなければならず、またそのような処分の無効原因は、無効を主張する者において具体的事実に基づいて主張すべきであることは、論旨引用の当裁判所の裁判例によつて明らかである。されば、所論の経費等の否認について被上告人側に右のような明白な誤認の存することが具体的事実に基づいて認定できないかぎり、本件更正処分を無効とはなしがたく、原判決が、右否認の当否のごときは原則として事実関係を精査してはじめて判明する性質のもので、たとえ結果において被上告人の認定に誤りがあり、あるいはその手続に疎漏があつたとしても、それをもつて直ちに明白な瑕疵ありとして更正処分を当然無効と認められない旨を判示したのを失当ということはできない。論旨は理由がない。

同五ないし九について。

昭和二五年法律第七二号による改正前の旧法人税法(昭和二二年法律第二八号)が法人の超過所得算定の基礎とした資本金額は、その事業年度において法人が自由に活用しうる状態にあつた払込資本金額と積立金額、すなわち法人の各事業年度の利益のうち社内に留保した金額の合計であるが、右積立金額から「法人税として納付すべき金額」を控除させるのは、それが近い将来において社外に流出するのが確定的であるので、これを利益の留保とみないためと解される(同法一三条、一五条、一六条参照)。また更正処分は、事業年度の終了により課税要件を充足して成立する同年度の法人税納税義務について、納税義務者の申告を失当として法律の定めるところに適合するようこれを訂正確定する処置である。してみれば、本件において、被上告人が上告人の前事業年度の所得に関する更正処分により追徴した不足税二九、九〇〇円は、前年度に係る法人税として、すでに係争事業年度期首において存在していたわけであるから、これを期首積立金額の計算上控除したのは正当であつて、これと趣旨を同じくする原判決の判断を違法とは認められない。論旨は、原判示を法的根拠不明というが、判決における法律上の見解の説示には、必ずしも所論のように一々根拠法条の掲記を要するものではない。論旨が国税の徴収または収納に関する規定をあげて論難するのは正鵠を失し、その他の所論もすべて前叙の判断に動かすに足りない。

つぎに、被上告人が前記積立金額から控除すべき「法人税として納付すべき金額」のうちに三、一八四円の加算税額をも計上した点についてみると、右加算税額は、正当な申告と納期限によつた納税者との均衝上追徴税額に加算してその事業年度の所得に対する法人税の一部として納付すべきことの確定した税額であるから、前記追徴税額とその取扱いを別異にすべきでないとする見解も一理ないではない。しかし、積立金額の計算はその事業年度の期首における金額によるのであるから、利益の留保とみない未払法人税額もまた期首において客観的に成立していると考えられる前事業年度分までの未納法人税額に限られ、その以後における納税の遅延の状態に基づいて課せられる加算税額には及ばないと解するのが相当であつて、この点については論旨を肯認することができる。

しかし、右の場合、積立金額から控除すべき法人税のうちに加算税が含まれるか否かは法人税法またはその関係法令上必ずしも明らかとはいいがたく、また本件において三、一八四円の加算税額を積立金額より控除しない結果を被上告人の更正処分における計算と比較するも、その税額の減少は些少のものといわざるをえない。(更正処分の計算に対し税額の減少は、前記加算税額をはるかに下回わる程度のものにすぎない。)されば、本件被上告人の更正処分には叙上の誤算が認められるとしても、その瑕疵は所論のように右処分の全部または一部を当然無効ならしめるに足りる重大かつ明白なものとは到底解しがたく、これと結論を同じくする原判決の判断は相当であつて、結局論旨は採用できない。

なお、このほか論旨の主張するところがいずれも理由のないことは、本判決のすでに説示したところに徴し明らかであり、論旨はすべて理由がない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松田二郎 裁判官 入江俊郎 裁判官 長部謹吾 裁判官 岩田誠 裁判官 大隅健一郎)

(昭和四一年 第五二号 上告人 有限会社藤香田商店)

上告人の上告理由

一、原判決理由(二)には左記のとおり民事訴訟法第一八六条に違反する点がある。

(1) 原判決はその判決理由(二)のなかで「控訴人は前記のような普通所得の更正がなされたのは、所得金額計算上益金に加算すべき損金計算法人税(前期分)七万八七二一円に、全く理由のない五万〇一〇〇円を不当に加増した瑕疵に基因するものと主張する」と断定しているが、上告人は原審においてそういう甲立てはしていないのである。すなわち上告人の原審における申立ては次のとおりである。

(イ) 控訴状の控訴理由二

前項の差額が生じた原因は、次のとおりである(1)否認の理由が証明できない否認金一万三二二四円に対する法人税三五%の額四六二八円四〇銭が加算されていること。

(ロ) 同理由三

前項のうち超過所得税が増加した原因は、前項(1)の否認金一万三二二四円が益金に加わり、普通所得税と超過所得税増嵩の原因になつている(中略)すなわちこの二点を是正すれば甲一号証に帰する。

(ハ) 昭和三八年六月一七日付準備書面一の末尾「被控訴人代理は百万言を費すよりも一万三二二四円を否認した理由を明白にすべきである」

右の上告人の申立に対応する被上告人の申立は次のとおりである。

(ニ) 被上告人が第一審に提出した昭和三六年二月一三日付準備書面第一の三(3)の末尾記載の「(もつともこの一万三七五七円から被告が乙一号証の三所得金額の計算中法人計算利益金について誤つて過少に計上した一〇〇円と前記否認金の建物減価償却超過額のうち、当期に認容すべき四三三円を差引いたものが、被告計算と原告計算との実質的相違点で、現実にもこの金額が更正した課税所得金額三五万七三四〇円(乙一号証の一参照)と、原告が申告した所得金額三四万四一一六円(甲一号証の一参照)との差額に一致する」

(ホ) 昭和三八年五月二一日付被上告人の準備書面(イ)の(1)に記載の「経費等の否認額一万三二二四円。右は(中略)被控訴人がなんの理由もなく水増し課税したものではない(右争点となつている金額一万三二二四円は、経費等の否認額一万三七五七円から被控訴人が法人計算利益金を誤つて過少に計上した一〇〇円および建物減価償却費を進んで認容した額四三三円を差引いた額である)

以上の如く当事者双方の申立ては、本訴の一つの争点が法人計算利益金一万三二二四円の正当性の有無にあることは一致しており、第一審判決もまたこれを認めているところであるが、原審がこれを無視し、当事者双方が申立てない事項について判決しているのは、民訴法一八六条に違反する。

二、判決理由(二)の中段において「原審証人加藤一(第一・二回)の証言および控訴人が前営業年度分について、叙上のような理由に基いて更正処分を受けている事実を綜合すると、被控訴人において控訴人主張のような何らの理由もないのに五万〇一〇〇円を益金加算額に水増した事実はなく、被控訴人を所得計算の根拠として益金に加算した一二万八八二一円は、控訴人も認めるとおりの損金計算法人税七万八七二一円に、前叙認定の三万六三四三円と被控訴人が本件更正前に行つた調査によつて、控訴人の所得計算中の経費その他否認すべきものと認めた金額の合計一万三七五七円の合算額であり、乙一号証の三にはこれを誤つてすべて損金計算法人税額欄に一括記載したものであることが認められる(右計算書類上の記載欄の誤りが処分の瑕疵とならないことはいうまでもない)」と判示している点について反論する。先ず第一に

(1) 「被控訴人主張のような何らの理由もないのに五万〇一〇〇円を益金加算額に水増しした事実はなく」の点であるが、かく断定した根拠は判決で認めている事実中(控訴人代表者主張)の(二)であると想像されるところ、上告人主張の焦点はその末尾に記載してある「結局差引一万三二二四円については修正原因を明らかにしえず」にあるのであつて、原審は控訴状控訴の理由第五項及び昭和三八年六月一七日付準備書面第一項の上告人の主張に考慮を与えなかつた疑がある。要するに被上告人は昭和三四年一二月八日付準備書面第三項、同三五年五月三一日付準備書面第二項及び同三六年二月一二日付準備書面第一項本文末尾の主張その他において、否認した金額は一万三二二四円であることを認めながら、その否認理由を明白にしていないことに争点があるにも拘らず上告人の主張を無視し、被上告人の不合理な主張を一方的に肯定して、上述の如く断定したのである。また判示のなかでいつているように、原審において上告人が「全く理由のない五万〇一〇〇円を加増して、これを一二万八八二一円と修正したことに基因するもので、正当な課税要件のない水増課税である」と主張した事実はない。

第一審の初期においてはそのような主張をしたこともあるが、本書第一項(1)の(二)に記載したような被上告人が不当な加増額が一万三二二四円であることを認めた以後は、五万〇一〇〇円を問題にしたことはないから、判示の上記の部分は誤認である。

(2) 判決理由(二)のなかで「右事実は原審証人加藤一(第一・二回)の証言及び控訴人が前営業年度分についても叙上のような理由に基いて更正処分を受けている事実を綜合すると、被控訴人において控訴人主張のような、何ら理由もないのに(中略)水増しした事実はなく(中略)被控訴人が本件更正前に行つた調査によつて(後略)」と判示しているが、加藤一証人は第一回(昭和三五年一二月六日)の第一審法廷における証人調の際「五万円のうちで証人が問題にした二万七千いくらと八千いくらと合計三万五千いくらを引いた残りの一万いくらというものは此の書類の上では説明がつかぬということですね」という原告の質問に対し、証人は「そうでございます、帳簿を見ればわかると思います」と答え、さらに「少くともこの書類の上ではわからないということを、説明していないということをあんたは認めるわけですね」の問に対し「そうです」と答えている(訊問調書の原文)。この証言は経費の否認一万三二二四円の否認理由が乙一号証の三の相当欄に記載してないことを確認するために行なわれたものであるが、後に述べるように、第二回の証人調における裁判長の訊問に対しても遂に明言することができなかつた点である、なお第一回の証人調の際上告人の追及にあつて自分の過失であつたと証人は陳謝した事実がある。

次に第二回証人調は裁判長交迭後の昭和三七年二月一九日に行なわれたが、前記の否認理由についての裁判長の訊問に対し、加藤一証人は不得要領の遁辞を繰り返えすばかりで裁判長も遂に訊問を打切つたことは調書に記載されているとおりであつて、かかる信憑性のない証言を原判決が採用され有力な証拠とされたことは承服できない。また当時いわゆる水増課税が、世論の指揮を受けていた事実に照らしても、理由不明の利益加算が水増しでないと断定しうるであろうか。

(3) また「控訴人が前営業年度分についても叙上のような理由に基いて更正処分を受けている事実を綜合すると」と判示しているが「叙上のような理由」とは具体的にどういうことをいうのであるか、上告人にはわけがわからないのである。もし前年度の確定申告が杜撰であつたという、被上告人の第一審における昭和三六年二月一三日付準備書面第一の四の「原告経理が、ずさんであることは前期分の課税内容(甲五号証参照)を見ても充分うなづかれる」と主張している一方的な断定に影響されて、前年度の経理が杜撰であつたから当年度の申告も杜撰であると無責任な推理によつてかく判定されたのであれば憲法に違反する。当時上告人が被上告人の右の主張に敢えて反論しなかつたのは、かかる独断的ないいがかりは判決に影響するものではないと確信したからである、第一審もかかる被上告人の不当な主張を取上げてはいないのである。しかし原判決が単なる推測によつて上告人を税法違反の常習者と断定し、偏見に基いて上告人の行動の自由、良心の自由権を否定して行政庁の一方的な主張に同調し、日本国憲法以前の封建的官僚専制の悪弊を支持されたことは、国民の基本的人権を保障する憲法第三章の規定に違反する判決である。

(4) なお被上告人が前期分の更正の理由にした「売上計上漏」及び「架空仕入」を経理ずさんの証拠であるかのように強調したことが、悪い印象を与えているようであるが、しかしながら「売上計上漏」とか「架空仕入」と称するのは被上告人が勝手にそういつているのであつて、その真相は決算の際「売掛代金総括勘定」の期末残高と「売掛代金人名別残高一覧表」の合計額、ならびに「買掛金総括勘定」の期末残高と「買掛金人名別残高一覧表」の合計額との問にそれぞれ若干の不符合があつたが、当該年度は創業の初年度であり且つ終戦後二年目の混乱時代でもあつて、外地引揚者が集つて創立した当社として体制及び秩序が未だ確立していなかつた事情もあつた上に、申告期限が目前に迫つていて早急に原因を探究する余裕がなかつたため、一応そのまま決算をすませ、翌期において再調査した上で整理しようとしたことが、脱税目的の工作であると誤解されたようである。

「入名別残高一覧表」は上告人が便宜上作成したもので、税法上の必要書類ではないから、呈示するには及ばなかつたし、また適宜修正しておく手段もあつたのであるが、単純に考えて期後再調査する目的でそのままにしておいた、再調査すれば「人別一覧表」の単純な間違いであることが判明した筈である、その理由は上告人が採用している復式簿記の機能上、期末の貸借対照表の貸借のバランスがとれている限り、復式簿記の構成要素たる売掛及び買掛の総括勘定に誤りはありえないからである、間違があるとすればそれは「人別一覧表」にあるわけである。しかるに上告人が期後再調査の手びきのための心覚えとして帳簿の余白に仮記しておいた異算額を当該公務員が拾い上げて、そのよつて来る原因を突きとめないまま売上計上漏、架空仕入と課税上有利な独断的理由をつけて、追徴税を賦課したのであつて、むしろ旧法人税二九条の「申告又は修正に係る課税標準(中略)が政府において調査した課税標準と異るときはその調査により、課税標準を更正する」と規定している「政府の調査」なるものが上に述べたような不徹底且つ不親切なものではなく、権威ある調査を意味する万全なものでなければならないとすれば、本件の場合においても当該調査員が、自らの努力によつて、いわゆる売上計上漏れの事実を探求するための一年間の売上関係の伝票の精査、売掛代金人名別勘定帳えの転記、集金の入帳、各人別残高の精算、また架空仕入れの事実を探求するためのこれまた一年間の仕入仕切書から仕入帳及び買掛人名別勘定帳えの転記、支払及び戻し品関係の記帳の確認、各買掛人別残高の精査などのかなり複雑で手数のかかる作業を経て発見した成果でなければ万全とはいえない、法に規定する「政府の調査」の真の目的を具現するものとはいえない不完全な調査を理由として更正処分を行つた当該公務員の行跡をこそ、杜撰なやり方をこそ非難さるべきであつて、上告人を税法違反の常習者呼ばわりするのは行き過ぎてある。

しかるに原判決がかかる真相を究明することなく、また原審においては被上告人が問題にもしなかつた東項を取上げ推理によつて判決理由を作成されたのは基本的人権の擁護を保障する憲法に違反し公正な判決ではない。

(5) 次に「被控訴人が本件更正前に行つた調査によつて、控訴人の所得計算中の経費その他否認すべきものを認めた」と、被上告人の主張を無条件に肯定している点であるが、いかなる証拠に基いて架空の事実を肯定したのか、不可解である。加藤一証人は第一回の証人調において「私が調査した結果否認した金額を纒めて書いたものと思う、否認すべきものがあつた」とか「前年度において架空仕入、売上計上漏などがあつたように帳簿を見て発見したものでその際藤香田に指摘した」などとあいまいな証言をしているが(訊問調書)上告人は昭和三七年二月一九日付準備書面第二項で、加藤証人が調査のため来社した当時の模様を詳述しておいたから、その情況証拠によつて明白であると思われるが、端的にいつて右の加藤証言はすべてウソであるの一語に尽きる。当時(昭和二六年二月)加藤証人が調査に来た目的は係争年度分の経理調査ではなく、その二年先きの昭和二五事業年度の確定申告書を携帯しての同年度分に関する調査であつて、当日正午すぎに来社して四時すぎに調査を終わり、退去しようとする直前になつて、係争年度分の確定申告書が署内に見つからないから、その控を提供して貰いたいと要請するので(注、甲号証各号がその控に当る、なお甲号証は元元上告人が提出したものではなく、加藤証人が持帰つた控を被上告人がプリントして法廷に持参し、準備手続裁判官とも協議して上告人提出の形としたのであつて、その事実は甲号証そのものが証明している)上告人がその要請に応じたところ、当該年度の帳簿の提示を求め、これを僅々十分間ばかりペラペラとめくつて見て、何事も告げないで引揚げたのが真相である。加藤証人の調査中は私(上告人代表)が終始立会つていたが、係争年度分の確定申告書を紛失していた証人に、調査のための事前の準備などあろう筈もなく、何らの目標もないまま十分間という極めて短い時間に、数十頁に及ぶ経費明細簿のなかから否認すべきものを摘発することは不可能事に属する、しかもその間何らメモした形跡もないのであるから、前記のいわゆる否認経費一万三二二四円なるものの、否認理由などあろう道理はなく、忘れたから説明できないとか、帳簿を見ればわかるなどと非常識な証言に終始せざるをえなかつたことを実証する訊問調書の記録が、加藤証人の証言に真実性がないことを如実に物語つているのである。また「その際藤香田に指摘した」という証言も事実無根である。

右の如く信憑性のない証言を過信したと見られる判決理由は、公正を欠ぐばかりでなく、前掲の法人税法二九条の「政府の調査した課税標準と異るときは――更正する」という規定にも違反する行政処分を、あえて肯定せられる結果に陥つていることは遺憾である。

(6) また更正には明白な理由が必要であることは民主憲法の下では自明であると信ぜられるにも拘らず、理由不在の行政処分を適法と判示し不法な課税を支持したことは公正な判決とはいい難い。

(7) 以上詳説した理由によつて理由なく普通所得に加算された一万三二二四円を所得から減額し乙一号証の一の普道所得三五万七三四〇円を甲一号証の上告人申告の如く三四万四一一六円と修正させるべきである。

三、判決理由(二)の後段に「結局右一万三七五七円の否認原因の有無に係る」とあるのは、前述のとおり「一万三二二四円」の否認原因とするのが正しいが「たとえ結果において被控訴人の認定に誤りがあり、あるいはその手続に疎漏があつたとしても」といつている点には異議がある。それは争点になつている「一万三二二四円を課税標準に増額した原因は上に縷述したように、単なる誤認或は手続の疎漏などというべき本質のものではなく、当該公務員(加藤一証人)の計画的作為に基因するいわゆる水増しにあることは寸毫の疑いをさしはさむ余地もない犯罪的事実であるから、これを公正な行政行為として寛大に取扱うことには根本的な誤りがある。

加藤一証人自身が本件更正を立案した責任者でありながら、前記一万三二二四円を所得(課税標準)に加算した理由を明確にすることができなかつたのは、原審における昭和三八年六月一七日付準備書面の一の後段において詳述したように、右加算額が次のような手順を経て作為されたものであるからである。

(1) 乙一号証の三所得金額の計算書中「所得金額計算」の部「損金計算法人税」の欄は七万八七二一円とすべきを、誤つてこれに五万〇一〇〇円を加算して一二万八八二一円にした(この五万〇一〇〇円を加算したことについて、原判決理由(二)はこの五万〇一〇〇円に利益処分によらない表現積立金の増加欄に本来記載すべきであつた三万六三四三円と経費その他否認すべきものと認めた金額の合計一万三七五七円の合算額であり、乙一号証の三にはこれを誤つてすべて損金計算法人税に一括記載したものであると認定している)。

(3) しかるに五万〇一〇〇円を加算した加藤一公務員の意図は、五万円というきりのよい数字を加算するにあつたと推定される理由があるのである。

その理由は同計算書中の「法人計算利益金」は二三万〇三九五円が正しいのを加藤一公務員が一〇〇円を過少に計上して二三万〇二九五円と記載した(前記一の(1)の(ニ)及び(ホ)参照)ことを被上告人も認めているのであるから、これを一〇〇円加えて二三万〇三九五円と訂正しその加えた分に対応する一〇〇円を五万〇一〇〇円から相殺すれば五万円の純増となるのである、すなわち一方において一〇〇円を過少に計上し他方において同じ額を加算したことは工作を複雑にし水増しの証跡をくらまそうと企てたのである。

(3) 前記純増加額五万円の構成は次のとおりである。

税金引当金否認額、売上計上漏、架空仕入の合計額(判決理由(ニ)) 三六、三四三円

建物減価償却費認容額(上告理由一の(1)の(ニ)及び(ホ)) 四三三円

理由不明の否認額(上告理由二の(1)(2)(7)) 一三、二二四円

合計 五〇、〇〇〇円

(4) (3)の三万六三四三円の内訳は次のとおりである。

税金引当金 八、八六一円}(乙一号証の三中「否認金計算」の部(2)(3)(4)に該当)

売上計上漏 一五、八六一円

架空仕入 一一、六二一円

(5) 乙一号証の三中「所得金額計算」の部「既往否認金認容額計」三万六七七六円の内訳は次のとおりである。

(5) 前記の(4)金額 三六、三四三円

〃 (3)のうち建物滅価償却費認容額 四三三円

(乙一号証の三中「否認金計算」の部(1)に該当)

(6) 以上の分析によつて利益金に加算した五万円のうち税金引当金否認額その他の合計三万六三四三円(前記(3))と建物減価償却認容額四三三円(上記(3))の合計三万六七七六円は(5)の「既往否認金認容額」計三万六七七六円によつて相殺されていることが分明であり、何故にかかる無用の操作が行われたかという疑問が生じるのである。すなわち利益に加算した五万円の一部を構成している三万六七七六円は乙一号証の三の「否認金計算」の部の認容額三万六七七六円に該当するのであるが、その内訳は甲四号証による更正の理由になつている甲五号証の更正決定による増額の内訳のうち建物償却中の否認額三九八一円中の認容額四三三円、県営業税否認八八六一円、売掛代金帖尻超過額一万五八六一円及び買掛代金減少額一万一六二一円に該当し、昭和二三事業年度分追徴税としてすでに賦課徴収ずみであるから、一事不再理の原則によつて本係争年度の所得計算に持ち出してはならないものであるが、それにも拘らずそれを敢えてして利益金えの再加算、既往否認金認容として控除するなど手の込んだ操作をしているのは、当初五万〇一〇〇円を水増しし「法人計算利益金」の欄で一〇〇円を減額して正味五万円の加算とし、さらに相殺の形で三万六七七六円を控除して結局一万三二二四円を理由不明の形で残すことにより課税標準額を水増しするという複雑にして巧妙なゴマカシをやつていることが明瞭である。すなわちこの過程を単式化すればプラス五万円、マイナス三万六七七六円、差引き理由不明の加算額一万三二二四円というからくりになるのであるが、裏を返えせば初めに五万円という綺麗な数字を土台として置いて、それから尤もらしい理由の下に「既往否認金認容額」なる金額を控除し、それから逆算して一万三二二四円を捻出し(初めから定まつていた数字ではない)これを課税標準に加えたが、原告に漏れないと思つていたのに原告が被告の関係書類を点検したことによつてその証跡が暴露するに至り、加藤一自身証人台に立たされるに及んで、加算の理由を明白にしなければならないことになつたが、証言に窮して前述の如く曖昧にして不得要領な遁辞を述べなければならない破目に陥らざるを得なかつたと思われるのである。しかるに原判決が加藤一証人の証言にならない証言を措信して理由不明のまま一万三二二四円の加算を容認して正当な理由ありと判断したのは失当である。

四、次に判決理由は本件更正処分に瑕疵があるか否かの判定について、最高裁判所昭和三六年三月七日第三小法廷判決(昭和三五年(オ)第七五九号国税賦課処分無効確認請求事件)の判旨の一部を引用しているようであるが、原判決にいう「前叙の認否の当否の如きは、原則として事実関係を精査して初めて判明する性質のもので(中略)それをもつて直ちに、ここにいう明白な瑕疵ありとして、更正処分を当然無効とすることができないことは明らである」といつている点は、最高裁の現行判例と異る、上記最高裁の判例は、「行政処分が当然無効であるというためには、処分に重大かつ明白な瑕疵がなければならず、ここに重大かつ明白な瑕疵というのは『処分の要件の存在を肯定する処分庁の認定に重大・明白な瑕疵がある場合』を指すものと解すべきことは、当裁判所の判例である。右判例の趣旨からすれば、瑕疵が明白であるというのは、処分成立の当初から、誤認であることが外形上、客観的に明白である場合を指すものと解すべきである(中略)また瑕疵が明白であるかどうかは、処分の外形上、客観的に誤認が一見看取し得るものであるかどうかにより決すべきものであつて」と判示し、また最高裁判所昭和三四年九月二一日第三小法廷判決(昭和三二年(オ)第二五二号土地所有権確認請求事件)では「無効原因の主張としては、誤認が重大・明白であることを具体的事実に基いて主張すべきであり、単に抽象的に処分に重大・明白な瑕疵があると主張(中略)することだけでは足りないと解すべきである」と判示している。

これらの判例を綜合すると、原判決がその理由に掲げている「原則として事実関係を精査して初めて判明する性質のものは明白な瑕疵ではない」という趣旨ではないようである。なかんずく上記の判例が要求している「具体的事実に基く主張」はその具体的事実の価値を精査しなければ心証は得られないと思われるから、精査を要する瑕疵は明白な瑕疵ではないという原判決の論旨は、判例に牴触すると思われる。本件は上告人が係争年度の普通所得は三四万四一一六円であることを甲一号証をもつて申告したのに、被上告人が三五万七三四〇円(注、この差額一万三二二四円)であると更正したことについて、その増額認定した原因に判例にいう「処分の要件の存在を肯定する処分庁の認定に、処分成立の当初から誤認があることが外形上、客観的な明白な瑕疵である」ことを上告人が確認して証拠によつてその具体的事実を主張しているのである。しかも所得を増額させた原因は「一万三二二四円」の経費を否認しこれを所得に加算したことにある事実を、被上告人が確認しておりながらその否認した経費の費目ならびに否認した理由の一切を明示しえないまま、正当な課税であるの一点張りで押通うしているため水増課税の疑惑をさえ生じている事態が証人調及被上告人指定代理人らの提出した準備書面によつて明瞭になつているし、またこの具体的事実は、甲号証と乙号証を対照することによつて一見直ちに看取しうる状態にあるのであるから、上述の最高裁判所の判例に適合していると考えるにも拘らず、原判決が判例と異る判決をしたことは、明らかに判例に違反している。

なお上告人は控訴状で主張したが、もし事実関係を精査して明らかになつた瑕疵が、不法原因にならないという思想が、一般的に公務員に浸透したならばどうであろうか、行政処分の作業を故意に複雑ならしめることによつて、非違を紛飾するという社会正義に反する行為が馴致されることにはならないかを憂うるものである。このことは現に被上告人指定代理人の主張にその片麟が現われているところである。願わくば判決に当りかかる弊害を未然に防止することに意を致されんことを。

五、原判決理由(三)に対する反論

(1) 判決理由(三)で「しかし何れも成立に争いのない甲一号証の三・五、同四号証、乙一号証の一・四、同二号証を綜合すると被控訴人が資本金額算出に当つて控除した未納法人税四万六二一八円は、控訴人の確定申告にかかる所得額に対する法人税額一万三一三四円と前叙認定の前期分課税標準に関する更正処分の結果追徴されることになつた不足税額二万九九〇〇円およびこれに対する法四二条二項による加算税額三一八四円の合計額であることが明らかである。各事業年度の所得に対する法人税の納税義務は各事業年度経過の時において課税要件が充足され基本的には(中略)法律上確定的なものとして成立するものであり、後日の更正処分によつて課税標準が正当に把握された結果確定申告額を基準とした税額に不足を生じ追徴されることになつた部分についても法律上は同様であつて、右処分により新たな納税義務が生ずるわけではないから」といつているが、その法的根拠は不明である。

しかるに憲法八四条及三〇条の租税法律主張とその具現として会計法(昭和二二年三月法律三五号)三条は「歳入は法令の定めるところにより、これを徴収又は収納しなければならない」と規定し、また国税収納金整理資金に関する法律(昭和二九年三月法律三六号)九条は「国税等は、法令で定めるところにより、徴収し又は収納するものとする」と規定しているのであるから、判決にはいかなる法律に根拠するかを明示しなければならない。甲四号証によつて更正処分が行われた事実は認めるが、この更正は本書第二項(4)に引用した旧法人税法二九条の規定を適用して行われたものであるところ、この更正により具体的に納税義務が生じるのは、同法三二条の「政府は前三条の規定により課税標準を更正(中略)したときはこれを納税義務がある法人に通知する」という規定並びに、旧国税徴収法(明治三〇年三月法律二一号昭和二二年三月法律二九号改正)六条の「国税ヲ徴収セムトスルトキハ、収税官吏ハ納税人ニ対シ其ノ納金額、納期日及納付場所ヲ指定シ之ヲ告知スベシ」いうう規定による通知が、納税義務がある法人に到達したとき(国税に関する通知も、その通知が相手方に到達した時より、その効力を生ずるという、民法九七条の規定に従つていることは周知のとおりである)からであるから、新たな納税義務の発生であることに疑義はなく、原判決は法律の適用を誤つている。

(2) また「前年度分の更正処分が係争事業年度内になされ、追徴すべき不足税額が明らかになつた以上、当該事業年度の確定申告においては、その額を期首現在の未納法人税額に含めて計算すべきであり、これを加算しないで申告がなされた場合に、更正処分がなされることは当然である」とあるが、被上告人が係争年度の課税標準を更正した原因になつている、いわゆる売上計上漏及び架空仕入による利益金二万七四八二円は、後に述べるように甲一号証の二の当期利益金二三万〇三九五円に包含されているのであるから、期首現在の未納法人税に含める必要はなく、また含めてはならないのである、また当時この判決理由をうらづける法律は存在しなかつたのである。

(3) 甲四号証による更正の理由になつている、甲五号証の売掛代金帳尻超過額一万五八六一円(判決理由(二)でいう売上計上洩)及び買掛金額減少額一万一六二一円(架空仕入)は書第二項に縷述した如き性質のものであつて直接利益を増加する要素ではないが、昭和二三年二月の広島国税局調査員による調査の際、さきに述べたように、かりに帳簿の余白に記しておいた、会計上の実質的内容ではない単なる覚書きの数字を拾い上げられたのに対し、当時上告人においてはこれを精査して原因を突き止める時間的余裕を持たなかつたので、原因不明のまま同年三月末日の上半期仮決算等の直前に、これを係争年度の益金に計上し、その後の四月一〇日に提出した当該仮決算による中間申告書(乙二号証、同証中利益処分によらざる積立金の増加二万七四八三円がこれに当る)に記載して申告したが(注、甲号証による更正前である)これを帳簿に計上するに当つては、当会社の帳簿組織が復式簿記を採用している関係上、借方の「売掛代金総括勘定」に一万五八六一円(債権額の増加)を、また「買掛金総括勘定」に一万一六二一円(債務額の減少)を記帳すると同時に、この二口の合計金額二万七四八二円を貸方の繰越益金勘定に計上して貸借のバランスをとつたのであるが、かく計理した結果は係争年度の決算においてこの金額が帳簿上の利益となり、当該年度の普通所得に包含されるものであるし、また他方その後において処分された甲四号証による更正にもこれを利益に算入して課税(甲四号証の更正の理由になつている甲五号証中の「申告額二万七四八二円」は、前記乙二号証の利益処分によらざる積立金の増加に当り、しかも甲五号証中においても売掛代金帳尻超過額及買掛代金減少額の合計額と重復しているから二重、三重の課税になつている)当時上告人はこの更正を深く検討するだけの心の余裕がなかつたので、追徴額はそのまま納付したが、この一連の事実は上記判示が「その額を期首現在の未納法人税に含めて計算すべきである」といつているのは妥当ではないことを証して余りあるのである。

なお上告人が採用したこの期後に繰越益金を増額する整理方法は、被上告人も昭和三六年二月一三日付準備書面第一の三の(2)において肯定しているところである。また上述の如く前年度未の貸借のバランスはとれていたのであるから、実際上復式簿記の帳簿組織においては確定申告以外の未納法人税額なるものが、前年度の期末にも、また係争年度の期首にも帳簿上介在しうる余地がなかつたことは首肯さるべきである。すなわち当該期首現在の未納法人税額は確定申告の一万三一三四円であることに誤りはないのであるから「前記追徴税額二万九九〇〇円が未納法人税額に加算されたことは全く正当である」という判断には合法性がない、もし合法性があるといわれるなら、その法律上の根拠を明示されなければならない。なお本件については後記第七項を参照されたい。

(4) 次に加算税三一八四円を期首現在未納法人税額に算入したことは正当であるという趣旨の判断についてであるが、本件加算税は旧法人税法三三条、同四二条によつて徴収されるものであるところ(注、各条文は後出)三三条の追徴税額は、三二条による更正通知の日から一箇月後が納期限であり、加算税は当該追徴税を納付すべき日に命令の定めるところにより、命令の定める期間に応じ――算出した金額に相当する税額(注、加算税)を加算して納付しなければならないのであるが、命令である法人税法施行規則(後出)三八条では「法三三条の規定による追徴税額に法一八条乃至二四条に規定する申告期限の翌日から納付の日の前日までの日数に応じ――割合を乗じて算出した金額による」と規定しているから、加算税算出の基礎になる日数を求めるには追徴税を現実に納付したという事実行為(法律要件)の存在が必要であり、日数が確定しなければ税額が確定しないことは自明の理である。民法一三五条(注、民法を準用する法的根拠は会計法(昭和二二年三月法律三五号)三一条による)の「法律行為の始期」は本件加算税の場合、申告期限の翌日であり、また「法律行為の履行の期限」は追徴税額納付の日の前日に相当するから、本件加算税の請求権が発生するのは、追徴税を現実に納付する昭和二三年六月(甲四号証の日付たる同年五月三一日以後六月末日までの間)以後であると解される。従つて判決が「前者とその取扱を別異にすべき理由は存しない」として期首現在の未納法人税に算入すべきであると判示したのは法律の解釈を誤つており失当である。

(参照)

旧法人税法(昭和二二年三月法律二八号)

第三二条 政府は、前三条の規定により、課税標準を更正又は決定したときは、これを納税義務がある法人に通知する。

第三三条 第二九条乃至第三一条の規定により課税標準を更正又は決定した場合においては、前条の通知をなした日から一ケ月後を納期限として、その追徴税額(その不足税額又は決定による税額をいう)を徴収する。

第四二条 納税義務がある法人は、第二六条第二項に掲げる法人税については、同項の規定により法人税を納付すべき日に、命令の定めるところにより、命令で定める期間に応じ、当該税額百円について一日三銭の割合を乗じて算出した金額に相当する税額を加算して納付しなければならない。

2 前項の規定は、政府が第三三条の規定による追徴税額を徴収する場合についてこれを準用する。

旧法人税法施行規則(昭和二二年三月刺令一一一号)

第三八条 法第四条一項の規定により加算する税額又は同条二項において準用する法三二条の規定による追徴税額に相当する法人税に加算する税額は、法二六条二項の規定により納付すべき税額又は法三三条の規定による追徴税額に法一八条乃至二四条に規定する申告期限の翌日から納付の日の前日までの日数に応じ、当該税額百円について一日三銭の割合を乗じて算出した金額による。

六、以上の反論により原判決が係争年度の確定申告に被上告人が加えた左記の水増加算及び更正を肯定した理由がないか又は不明であることが分明になつたと信ずるのであるが、これは何れも法律違反の判決である。

(1) 乙一号証の三の法人計算利益額一万三二二四円を加増したこと。

(2) 同証中の期首現在未納法人税額に追徴税額二万九九〇〇円及び加算税額三一八四円を加算して四万六二一八円と更正したことを、法律上確定的なものとして成立すると肯定しているが、その法的根拠がないこと。

(3) 加算税額三一八四円の徴税権の発生期日を誤り、期首現在未納法人税に加算すべきものであると認定したこと。

七、被上告人は甲四号証による課税標準の更正に基く追徴税額及び加算税額を昭和二二事業年度に対する課税であるから旧法人税法一六条の

(第一項)この法律において積立金額とは、積立金その他法人の各事業年度の普通所得のうち、その留保した全額をいう。

(第二項)法人税として納付すべき金額は、前項の留保した金額には、これを算入しない。

という規定の第二項によつて積立金から控除すべきであると主張し、上告人は決算の際法人税額として確定している金額を未納法人税として留保したものに限ると解すべきである、しからざれば昭和二三事業年度の決算に対し、三年先の昭和二六年に至つて行われた更正の結果が、当該係争年度の前年度に波及し、同年度の益金を遡つて減額しなければならないことになり、利益がないのにすでに配当を実施してしまつているという取返えしのつかない不都合が生じるという意味の反論をした。しかして被上告人の見解も昭和二八年五月二一日付準備書面(一)の(2)の(ロ)と同準備書面(一)の(2)の(ハ)の(B)とでは異つており、定見がないように伺えるところ、更正処分による追徴税の納税義務が具体的に生じるのは、前掲旧法人税法三二条の通知が上告人に送達されたときであり、また該追徴税は予算、決算及び会計令(昭和二二年四月勅令一六五号)第一条一項の「随時の収入で納入告知書を発するものは納入告知書を発した日の属する年度」という規定に該当するから、昭和二三年度の歳入であることに疑義はない。

しかりとすればたとえ追徴を課せられる原因が前年度の所得にあるとしても、納税義務が具点的に確定した昭和二三年の歳入である以上、前掲旧法人税法一六条二項の規定する「法人税」に該当すると解釈することは拡張解釈であつて、不合理である。原判決が如上の争点について明確な判断を与えないままで、被上告人の主張を支持しているのは、公正な判決とはいえない。

八、次に判決理由(三)の後段に「本更正処分については、既に前叙のように追徴税額の算入が正当とされ、また普通所得に関する更正の効果を否定できない以上(注、上告人は控訴状控訴の理由一の二で否定している)控訴人がその主張のような普通所得および資本金額(中略)の計算に基き正当な超過所得としている二四万〇〇三三円よりも二万二一九四円の超過所得の増加を免れない筋合いとなるが右控訴人主張の超過所得と更正額との増差額は二万一九五六円に過ぎない」と判示しているが、該判示には次のような誤りがある。

(1) 被上告人が前繰越未納法人税額を、申告の一万三一三四円に不足追徴税額二万九九〇〇円および加算税額三一八四円を加算して四万六二一八円としたことは、判決理由(三)に判示しているところであるが、右の二万九九〇〇円及び三一八四円を前期繰越未納法人税とすることの不当であることは本書第五項において詳論したとおりであるから、被上告人が乙一号証の四において上告人の申告未納法人税額に追徴税額及び加算税額を加算した四万六二一八円を積立金、繰越益金等の合計額から控除することを肯定したのは誤りである。

(2) 本書第二項(7)でその不当加算を指摘した乙一号証の三法人計算利益金に理由なく加算した一万三二二四円を減額しなければならないことが黙過されたままになつているのは妥当でない。

(3) 「二万二一九四円の超過所得の増加を免れない筋合」という判示には次の誤りがある。

(イ) 先ず基本事項として甲一号証の三と乙一号証の四(いづれも資本金額の計算書)の相違点を対照すれば次表のとおりである。

科目 甲一号証の三 乙一号証の四

法定準備金 二、〇〇〇円 二、〇〇〇円

別途積立金 二、〇〇〇 二、〇〇〇

従業員福祉積立金 一、〇〇〇 一、〇〇〇

得意先感謝〃 一、〇〇〇 一、〇〇〇

繰越益金 三五、八三二 八、三四八

税金引当金 二一、九九六 一三、一三四

未表現積立金 ― 四〇、三二四

未納法人税 (一) 一三、一三四 (一) 四六、二一八

差引合計 五〇、六九四 二一、五八八

合計資本金額 三四六、九四二 三一七、八三八

右の甲乙両証の相違点の分析と反論

△繰越益金 甲号証の三万五八三二円の内訳は次のとおり。

前記繰越益金 八三四八円六一銭 本書第五項(3)で述べた益金加算額 二万七四八二円(円未満四拾五入)

すなわち乙号証言は右の繰越金だけを掲げているが、そのほかに本書第五項(3)によつて期後に益金に計上した売掛代金帳尻超過額一万五八六一円及び買掛金減少額一万一六二一円の合計額二万七四八二円を加算することを要する。

△税金引当金 乙号証は未納法人税一万三一三四円だけを掲げているが、この科目は法人税を限り計上するものではなく、上告人が自主的に引当金に振当てた県税八八六一円をも計上すべきであるから、甲号証の二万一九九六円が正しい。

△未表現積立金 この内訳は次のとおり。

売掛代金帳尻超過額(売上計上洩) 一万五六一円 買掛金減少額(架空仕入) 一万一六二一円

県税引当金 八八六一円 建物減価償却超過額 三九八一円

右の内売掛代金帳尻超過額と買掛金減少額は、本書第五項(3)で説明した理由によつて未表現積立金とすることは誤りであるから削除すべきであり、県税引当金は前表甲号証のとおり税金引当金に合算するのが正しい(但し未表現積立金としても結果は同じである)建物減価償却超過額をここに計上することは、上告人にとつては有利であるが、上告人としてはこの超過額を認めていないから除外したのである。

△未納法人税 乙号証の未納法人税四万六二一八円の内訳は次のとおり。

上告人申告分一万三一三四円、追徴税額二万九九〇〇円、加算税額三一八四円

右の内、追徴税と加算税は、本書第五項(3)及び(4)において詳論したとおり、前期分の法人税ではないし、また前期繰越益金その他の合計には含まれていないから、これを繰越益金その他の合計額から控除するため未納法人税に合算することは当をえない、従つて控除すべき未納法人税は甲号証の方が正しいのである。

△差引合計 以上指摘したように乙号証の方を過正化すれば、甲号証の合計五万〇六九四円に帰する。

△合計資本金額 乙号証の三一万七八三八円は、乙一号証の四に記載の平均払込資本金額二九万六二五〇円に、前表乙号証の部の差引合計二万一五八八円を加算したものであるが、甲号証の部の三四万六九四二円は乙一号証の四の平均払込額二九万六二五〇円に前表甲号証の差引合計五万〇六九七円を加算したものであつて、この金額が正しい。

(ロ) (イ)によつて資本金額は三四万六九四二円が正当であることが立証され、普通所得金額もまた、本書第二項(7)のとおり三四万四一一六円が正当であることが動かない以上、乙一号証の一は甲一号証の一のように修正されなければならず、従つて上告人申告の超過所得額は元よりその算出の税額にも誤りはないから、判決の論旨は妥当でない。

(4) 判決理由(三)の未尾で「控訴人の超過所得を更正した部分についても、これを無効とする控訴人の主張は理由がない」と判示しているが、本書第四項において主張た理由により判例に違反するものと認める。

九、以上主張したところにより、原判決が上告人の請求を棄却した理由は、憲法、民事訴訟法及び法人税法その他の法令に違反し、また論理に齟齬があることは明白であるから、上告人の請求の趣旨を排斥するに足る理由は認められない、よつて原判決を取消し、上告人が上告状で請求したとおりの御判決を求める次第であります。

以上

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